学際計算科学・工学人材育成プログラム(東京大学)


現在実施されている講義


背景


 計算科学・工学,ハードウェアの急速な進歩,発達を背景に,「第3の科学」としての大規模並列シミュレーションへの期待は,産学において一層高まっている。最新ハードウェアを駆使して,大規模並列シミュレーションプログラムを開発するための体系的な教育プログラムの事例は,世界的に見ても少ない。
 東京大学では2008年初頭から,「T2Kオープンスパコン,次世代スーパーコンピュータ等を駆使した大規模シミュレーションを実施し,新しい科学を開拓する人材」を育成するための全学的な教育プログラムとして「学際計算科学・工学 人材育成プログラム」構想が検討されている。平尾公彦前副学長をヘッドとして,東京大学情報基盤センターが中心となって,関連部局(理・工・情報理工・新領域各研究科,生産技術研究所,気候システム研究センター)の緊密な協力のもとに作業が進められている。平成20年度冬学期から既に試験的な講義が開講されている。現在は,松本洋一郎副学長のもとで継続的に進められている。

特徴


 本人材育成プログラムの特徴は単に講義,演習を実施するだけでなく,大規模並列計算機を使って研究開発を行う研究者,技術者の活動を生涯支援するような環境を整備することを念頭においている点にある。
 具体的にはHPC-MW,HEC-MWのような大規模シミュレーションプログラム用開発基盤を整備する。このような開発基盤は計算科学と計算機科学の緊密な連携を考える上でも重要であり,両者の融合分野としての学際計算科学・工学の核となるものである。
 教育カリキュラムについては,東京大学地球惑星科学専攻で2003年度〜2007年度に実施されてきた「地球物理数値解析」,「並列計算プログラミング」,「先端計算機演習」の他,地球惑星物理学科,地球惑星科学専攻で実施されている講義,演習をベースに策定している。 詳細はこちらを参照されたい。
 教育カリキュラムの特徴は,「4S型人材育成戦略:System,Stage,Status,Style」である。

System
科学技術計算プログラミングを習得するためには「SMASH」すなわち,Science,Modeling,Algorithm,Software,Hardwareの幅広い分野をカバーすることが必要である。 カリキュラム全体としてはもちろん個々の講義,演習においてもできるだけ「SMASH」をバランス良く習得できるよう配慮することが体系的教育の最も重要なポイントである。

Stage
並列プログラミングを習得するためには,

 @計算機リテラシ,プログラミング言語
 A基本的な数値解析
 B実アプリケーションのプログラミング
 Cその並列化

という4つの段階(stage)が必要である。最も重要かつ,最も体系的教育が欠如しているのがBの段階である。本人材育成プログラムではCまでを修士課程修了時までに習得することを目指している。

Status
一言で「人材育成」と言っても様々なレベルがある。アプリケーションを使える人材,開発できる人材の育成が主であるが,「開発基盤」の研究開発に携わる学際的な人材(すなわち将来,並列プログラミング教育に携わることのできる人材),また新しい先端的並列計算機システムを設計できる人材の育成も視野に入れていく必要がある。

Style
「Stage」であげた,@,Aについては学部レベルでほとんどの学生が学んでいるが,B,Cについては新たな履修科目となる。集中講義,講習会,e-Learningなど様々な形態(style)の教育を提供することで,学生の負担増を極力抑え,効果的な学習を促進する。
参考資料:中島研吾,究極の「並列プログラミング教育」を目指して:地球惑星科学専攻での4年間と「学際計算科学・工学 人材育成プログラム」スーパーコンピューティングニュース,東京大学情報基盤センター(2008)[PDF]